
工場や商業施設などにおける、商品・資産の管理や従業員の安全管理、人員配置の最適化など、さまざまな課題の分析に活用されているのが、人やモノの位置情報です。
これらの情報をリアルタイムに取得するために使われているのが、位置測位システムです。
本コラムでは、屋内や屋外での位置測位に使われる技術の種類や、位置情報で実現できることについてご紹介します。
※本コラムに記載されている製品名は各社の商標、または登録商標です。
目次
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1.位置測位システムとは

位置測位システム(RTLS:Real Time Location System)とは、人やモノが「ある時点でどこにあるか」を測定する技術のことです。
主にGNSS衛星からの電波で測位する屋外測位と、衛星からの電波が届かない屋内で使われるIPS(Indoor Positioning System:屋内位置測位)に分けられます。
2.屋内位置測位技術の種類と特徴

屋内位置測位技術(IPS)は屋内における一定のエリア内に存在する人やモノに電波を発信する器具を取り付け、そこから発信された電波を基準に位置や動きのデータ化を行います。習得したデータはさまざまな業務の分析・課題解決に活用されています。
ここでは、屋内における位置測位システムの種類とそれぞれの特徴をご紹介します。
UWB
UWBとはUltra Wide Bandの略で、日本語では「超広帯域無線通信技術」という意味です。3.1~10.6GHzという広い周波数帯を利用して通信を行います。
日本では3.4~4.8GHz(ローバンド)と7.25~10.25GHz(ハイバンド)が主に使われています。なお、これまでUWBは屋内利用に限定されていましたが、2019年に入バンドの内7.25~9.0GHzについては屋外利用も認められています。
設置環境に左右されますが、既存の無線通信から干渉を受けないため、位置測位の精度は設置環境の影響がない場合で誤差30cm程度と非常に高い水準です。他の屋内位置測位技術と比べると導入コストは高価となるものの、高い精度の位置情報を取得したい場合に有効な技術です。
代表的な商品:Ubisense(8GHz)
UWBの詳細は、以下の記事でもご紹介しています。
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位置測位システム「UWB」とは?仕組みや他のシステムとの違いを解説
本コラムでは、UWBの概要とメリット、導入事例をご紹介しています。
参照:総務省電波利用ホームページ「UWB無線システムの屋外利用時の運用制限について」
BLE
Bluetooth®の一種であるBluetooth Low Energy(BLE)の信号強度を利用して位置測位を行う方法です。UWBに比べ導入コストを抑えられるだけではなく、機器設置の自由度や拡張性にも秀でている点が特徴です。
位置測位精度は50cm~3m程と、製品や設置環境によって異なります。高精度の位置情報が必要な場合や特定のエリア内に人が存在するかを把握する程度でよい場合など、用途に応じて幅広い製品から選択することが可能です。
BLEで使用する2.4GHzの周波数帯は、電子レンジなどの家電でも利用されるため、電波干渉を起こしやすいと言われています。これに対応した次世代BLEでは、独自の周波数帯を使用することで干渉を避け、かつ方向検知機能により安定した測位を行うことが可能です。
代表的な商品:Quuppa、どこいっ太 Air、EXBeacon
Wi-Fi
Wi-Fiのアクセスポイントとスマートフォンなどの受信端末を使用して、位置を測位する方法です。受信端末と複数のアクセスポイントからの距離を電波強度から測定することで、位置の算出が可能です。
ただし、Wi-Fiのアクセスポイント自体が密に設置される想定ではないものの、精度は設置密度に依存するため、アクセスポイント同士が密集していないエリアでは位置測定の誤差が大きくなることも考えられます。
代表的な商品:AeroScout
地磁気
建造物の鉄筋や鉄骨などの鉄材が発する地磁気を受信して位置を測定する方法です。磁気データやパターンを測定・データベース化し、スマートフォンなどに内蔵される磁気センサーで読み取ったデータと照合することで位置の測位が可能です。
スマートフォンなどの磁気センサーがあれば位置情報を得られるため、基本的に施設側に専用の計測機器を設置する必要がありません。定期的に磁場測定は必要ですが、比較的精度が高い点がメリットです。
ただし、大型車両が頻繁に通行するような環境の場合、地磁気が乱れるため測位が難しくなる傾向があります。
代表的な商品:VENUE
歩行者自律航法(PDR)
歩行者自律航法は、加速度センサーや角速度センサー(ジャイロセンサー)、磁気センサーなどから取得した値を基に、対象の移動方向や速度、距離などを計測して現在地を推定する方法です。英語のPedestrian Dead Reckoningを省略しPDRとも呼ばれています。
一般的にはスマートフォンに内蔵されていることが多く、比較的容易に使いやすい点がメリットです。ただし、利用時には開始地点を正確に指定する必要があります。
また、誤差が少しずつ大きくなるため、定期的な補正も必須です。歩行者自律航法による位置測位はあくまでも相対的であり、他の手法と組み合わせて活用することをおすすめします。
超音波
専用のスピーカーから超音波を発し、スマートフォンなどのマイクで受信して位置測位を行う方法です。マイクはほとんどのスマートフォンに搭載されているため、受信端末を簡単に用意できるのがメリットです。
ただし、他の超音波を利用する空間や、障害物を越える状況では適用できません。精度は周囲の環境に影響を受けやすく、設置場所に制約があるというデメリットがあります。
RFID
対象物にRFID(Radio Frequency Identification)タグを取り付け、専用のリーダーで読み取り位置を測定する方法です。タグ自体が電波を発信するアクティブ型と、リーダーの電波を返すパッシブ型に分けられます。
位置測位の精度はアンテナやタグの設置状況によって変わります。
またタグの一つ一つにデータを書き込むことができ、タグの種類も豊富なため、さまざまなシチュエーションで活用されています。位置測位だけでなく、入出荷や備品の持ち出し管理などの用途でも活用することが可能です。
2次元カラーコード(カラーバーコード)
色の組み合わせで認識を行う自動認識技術の一つです。電波を使用せずカメラで認識を行うため、電波によるゆらぎが少なく高精度な位置測位をすることが可能です。カメラに映る範囲であれば遠くからでも読み取ることができ、所在把握や動線取得などに使用されています。また、ICタグと比較して、安価にシステム構築ができる点も特徴です。
代表的な商品:いろあと
3.屋外位置測位技術の種類と特徴

ここでは、屋外で人やモノの位置測位を行う技術についてご紹介します。
衛星測位システム(GNSS)
GNSS(Global Navigation Satellite System)とは、衛星からの電波を活用して位置測位を行うシステムのことです。
GNSSに使われる衛星には、日本のみちびき(QZSS)、アメリカのGPS、ロシアのGLONASS、EUのGalileoなどがあります。
高精度の位置情報を取得するには、測位エリアと衛星の位置関係が重要です。衛星が離れた場所にある場合、衛星からの電波角度によっては、建物などが障壁となり電波が届きにくくなることがあります。
日本においては、準天頂衛星システム「みちびき」によって障害のないほぼ真上からの測位が可能です。実際の測位では、複数の衛星の電波を受信することでより高精度の測位を行うことができます。
参照:国土地理院「GNSS測位とは」、JAXA「準天頂軌道とは」
4.位置測位システムでできること

位置測位システムを導入することで、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。
ここでは、屋内の位置測位システムを導入するメリットをご紹介します。
作業工数の自動取得
位置測位システムを導入することで、作業員の行動やそれにかかった時間、滞在した場所の情報をリアルタイムで把握できるようになります。例えば、製造ラインで作業者にタグを付けることで、動きを把握することが可能です。
作業にかかった時間や休憩中などの状態を入力する必要がないため、作業者に負担を掛けずにデータを取得することができます。 取得したデータは、作業のボトルネックの分析や、原価管理に活用することが可能です。
RTLSを活用した工数管理については、以下の記事でもご紹介しています。
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工数管理を行うメリットは?位置測位技術(RTLS)で生産性を改善
本コラムでは、工数管理を実施する際のポイントや、RTLSを活用した事例などをご紹介しています。
モノ探し時間の削減
在庫や資材などのモノを探す時間を削減できることもメリットの一つです。例えば、広大な倉庫や工場で保管している仕掛品や部材、備品の所在をリアルタイムに可視化できます。
位置を自動で取得することで、棚卸や出庫時に置き場所を探す時間や紛失のリスクを削減することが可能です。在庫管理の最適化だけでなく、棚卸し業務の効率化にも寄与します。
また、所在管理が徹底されることで、保管スペースの有効活用など、コスト削減につなげることも可能です。
モノの所在管理については、以下の記事でもご紹介しています。
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所在管理システムで現場の課題を解決!仕組みと導入事例をご紹介
本コラムでは、モノやヒトの場所を管理する「所在管理」の課題や解決策、サトーの位置測位システムを導入した企業の事例などをご紹介しています。
稼働状況の可視化
位置情報から行動動線を取得できることもメリットです。
倉庫などでは、作業員の動線や作業の進捗状況を可視化することで、無駄のない動線へ改善することが可能です。他にも小売店舗で消費者の行動動線を分析することでデータに基づいた店内レイアウトの改善にもつながります。
店内レイアウトについては、以下の記事でもご紹介しています。
作業者の安全管理
位置情報により、作業者のエリア滞在時間を把握することが可能です。それによって、危険エリアの滞在の管理や重機などへの接近の検知などに役立ちます。
また、位置情報と同時にバイタルや転倒を検知するデバイスを連携させることで、作業員の健康状態の変化を察知し、事故予防に活用できます。
5.位置測位システムの選び方のポイント

位置測位の方法は複数あり、それぞれメリット・デメリットが異なります。
ここでは、位置測位システムを選ぶ際のポイントをご紹介します。
測位精度
まずは必要な位置測位精度を確認することが大切です。
高精度な位置情報が求められる場合は、UWB測位や電波強度と電波角度の組合せで位置情報を取得できるタイプのBLEなどが候補として挙げられます。
そこまで高い精度を必要としない場合は、電波強度のみで測位を行うBLEやRFIDを活用した位置測位をおすすめします。また、測位の精度は機器の設置数や現場環境によって変わるため、事前確認が必要です。
機器の設置場所
製品によって設置条件が異なるため、現場環境の確認が重要です。
広域の測位を行う場合は、ロケーターやセンサーを高い場所に設置するため、天井高の確認が必要です。高精度の位置情報が取得できる機器は、取り付ける向きや給電方法が制限されている場合が一般的です。一方で低精度の機器の中には、棚や柱などへの設置や配置換えも可能な機器や、電源が不要の機器もあります。用途に合わせた選定が重要です。
導入コストや保守運用性
導入にかかるコストやシステムの保守運用性も事前に確認しておくことが大切です。
導入コストは、端末単体の価格が安価であっても、測位したい面積や必要な端末数などによって増加する恐れがあるため、注意が必要です。
まずは特定のエリアに絞って測位を行うことでコストを抑え、段階的に導入を進めていくことも有効です。保守運用性はBLEに加えて、省電力で運用できるUWBも優れています。
6.生産性を向上させるサトーの位置測位システム

品質や生産性の向上につながるサトーの位置測位システムを紹介します。
屋内位置測位システム
サトーでは、以下の屋内位置測位システムを取り扱っています。
Ubisense
サトーの製品の中で最も測位精度が高く、タグの位置表示スピードは1秒以下と早いのが特徴的です。他の商品と比べると導入コストは高いですが性能が最も高いので、高精度の位置情報を得ることが可能です。
Quuppa
次世代BLEで測位を行うシステムです。データの可視化ツールやセンサー設置場所のシミュレーションツールなどが備え付けられており、Quuppaを導入するだけで位置情報を容易に把握できるのが特徴です。また電波干渉にも強いため、電波が飛び交う場所にも設置できます。サトーの位置測位システムの中で導入実績の高いものとなっています。
サトーでは、QuuppaやUbisenseで取得した位置データの活用に役立つプラットフォーム「uSIGMA」をご用意しています。①人/モノの所在検索、②エリア検知、③入室カウント、④作業工数管理といった4つの機能を備えており、現場の用途改善につなげることが可能です。
どこいっ太 Air
BLEを使用したシステムです。AIが距離や障害物による電波の減衰を学習することで、精度の高い位置検知(誤差約1m)を実現しています。設置場所・設置間隔に制限がないためレイアウトの自由度が高く、さまざまな現場で素早く設置することが可能です。
EXBeacon
BLEを使用した商品システムです。測位精度は2、3m程からと比較的低いものの、低コストで拡張性が優れています。電力消費量が少なく電池で給電することもできるため、設置の自由度が高い点もメリットです。高い精度を必要とせず、センサー設置場所を頻繁に変えたい場合におすすめです。
AeroScout
Wi-Fiの電波を活用したシステムです。AIによる位置の推定や、超音波・LF帯など複数の電波の組み合わせによって位置精度を高めることができます。座標検知だけでなく、指定した場所の通過検知、温度・湿度の測定も可能です。
いろあと
2次元カラーコード(カラーバーコード)を使用し、位置測位を行うシステムです。カメラで認識を行うため、±5cmの高精度でリアルタイムに位置を検知することが可能です。カメラに映る範囲であれば、遠くから複数コードを一括で認識することができ、コストも比較的安価な点も特徴です。
サトーでは、「どのシステムが現場に最適かを比較したい」というお客さま向けにスターターパッケージをご提案しています。位置測位システムとして導入実績の多いQuuppaまたはUbisenseをお試しいただけます。
スターターパッケージの詳細は以下をご参照ください。
屋外位置測位システム
サトーでは、以下の屋外位置測位システムを取り扱っています。
Cohac∞
衛星による測位情報を活用したシステムです。準天頂衛生システム「みちびき」をはじめとしたさまざまな衛星への対応や、複数の測位技術を組み合わせることによって、リアルタイムに位置を補正し誤差数センチ以下での測位を実現しています。
7.目的や場所に適した方法を使用することが大切
屋内の位置測位システムには複数の方法があり、それぞれ特徴が異なるため、用途や場所に応じて使い分けることが重要です。
サトーでは、今回ご紹介した以外にもさまざまな位置測位システムを取り扱っています。
求められる性能と価格に応じてベストな位置測位技術を、お客さまの運用に合わせたアプリケーションと一緒にご提案します。
位置測位技術の導入をご検討の場合は、サトーまでお気軽にご相談ください。
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