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SATOストーリー #03 つくろう、未来の「当たり前」。医療用リストバンドのこれまでとこれから

SATO STORY#03 SATO STORY#03

  • 左から、サトーヘルスケア株式会社 営業統括部 シニアマネジャー 橋本浩一(営業)、株式会社サトー OB小林一幸(開発)、サトーヘルスケア株式会社 事業企画・開発担当(兼)営業企画部 友澤洋史(営業)、株式会社サトー モノづくり本部 サプライ製造統括部 生産プロセス開発グループ 本田悟(開発)
  • 所属、役職は取材時のもの。()内は当時の担当領域です。

患者さんの氏名や生年月日、性別などのさまざまな情報が集約された医療用リストバンド。国内トップクラスのシェアを占めるまで、どんな思いのもと、どのように開発が進められたのか、また豊富な商品ラインアップはいかにして生まれ、今後どのような進化を遂げていくのか。黎明期を知る営業・開発メンバーに聞きました。

  • 当時の担当領域(営業・開発)によって名前の色を分けています
  • 営業
  • 開発

「患者さんを囚人扱いするのか!?」

橋本 サトーの医療用リストバンドについてひもとくのであれば、まずはその歴史からお話ししましょう。
1990年代後半のことです。当時、病院では患者さんを確認するための方法として、手書きのリストバンドを使う病院が徐々に出現していたものの、本人への呼びかけ確認が主流でした。しかし人が確認することなので、ヒューマンエラーやヒヤリ・ハットが起きないとは限りません。患者さんの状態によっては、間違った呼びかけに対しても「はい」と答えてしまったり、言葉を発することができなかったりする場合もあります。バーコードでの患者さん認証は絶対必要だ。そんな強い確信を持っていました。
ちょうどその頃、従来よりもはるかに手軽に、場所を選ばずラベル発行できる小型プリンタ「L’esprit(レスプリ®)」を発売したこともあり、レスプリで発行できる医療用リストバンドの開発がスタートしたのです。

初期型の「L'esprit(レスプリ®)」

小林 まったく新しい領域への挑戦でしたから、開発担当者としては面白そうだと思う反面、どのように進めていけばよいのか悩ましくもありました。それまでの小売用バーコードラベルとの大きな違いは、人が長時間身につけるものであるという点。十分な強度を保ちながらも皮膚への負担を抑え、衛生面での課題もクリアしなくてはならない。さらに印字の耐久性、そして厚みのあるものに対するプリンタ走行性など技術的ハードルも高い。医療用絆創膏などでメディカル領域での実績を持つ企業をパートナーに迎え、プリンタと基材のマッチングも含め一つ一つ仕様を詰めていったことを覚えています。

本田 例えば、優しい肌あたりになるよう内側になる面にエンボス加工で肌の接地面積を減らしています。しかし、それだけ用紙の厚みも増しますし、印字面には細かい凹凸がつくことになる。そこにしっかり印刷できるように、用紙の素材やインクの種類、印刷プロセスをすべて見直しました。

橋本 開発と並行して、私たち営業は各地の病院にリストバンドのご案内をしていました。ただ、当初は医療従事者の方々になかなか受け入れていただけなくて。「バーコード管理なんて、患者さんをモノ扱いするのか」「囚人のように感じる人もいるのでは?」と懸念を示されるケースも少なくありませんでした。

本田 そうした意識が変わるきっかけになったのが、1999年に起きた医療事故でした。二人の患者を取り違えたまま手術が行われてしまった事故は大きな注目を集め、ヒューマンエラー防止の観点からリストバンドの存在意義も見直されることになったのです。

メンバー総出で身をもって検証

友澤 1999年はサトーグループにとっての「メディカル元年」だと思っています。
多くの病院からお問い合わせをいただくようになり、リストバンド開発も一気に加速しましたね。

橋本 当時──今でもそういうところはありますが、開発・営業を含めたチームメンバー全員でリストバンドを身に付けていたのをよく覚えています。着替えたり、入浴したり、布団に入ったりといった生活の中で不都合が生じないか、身をもって確かめるわけです。

「身を持って検証」の精神は今も健在。インタビューした日も友澤が開発中のリストバンドを身につけていた

小林 私は家族にもつけてもらっていましたよ(笑)。もちろん外部の専門機関にもさまざまなテストを依頼し、考えられる限りの検証と改善を重ねた末に、ようやく入院患者向けリストバンドの第1号となる「Bタイプ」を世に送り出すことができました。

本田 先ほど友澤が「元年」という言葉を使ったように、まさに「Bタイプ」のリリースはゴールではなくスタートに過ぎませんでした。実際の医療現場で使われ始めると、さまざまなニーズが見えてきます。それに応える形で、一つまた一つと新たな商品を開発していくことになりました。

友澤 初期にまず多かったのがリストバンドの装着感をソフトにしたいという要望でした。より柔らかい素材を検討するとともに、それによって生じる印字の剥がれやリストバンド自体が反り返ってしまう問題などに対応し、2005年に新たなリストバンド「Nタイプ」がラインアップに加わりました。

橋本 他にも外来患者用のリストバンド「日帰りくん®」や、出産した母親と赤ちゃんのための母子一体型リストバンド「koDakara」など、当初想定していた一般の入院患者以外にも用途が広がっていきました。

母子一体型リストバンド「koDakara」。同じラベルに二本のラベルをプリントし分娩室で身につけるため、取り違え防止効果が高い

現場を訪れることで見えてくるもの

橋本 対象や使い方が変われば、それに合わせた仕様が必要になります。次々に寄せられるご要望に応えるべく、開発メンバーにはずいぶんと骨を折ってもらいました。

本田 大変だったのは否定しませんが(笑)、患者さんの命に関わる商品ですから対応しないという選択肢はありませんでした。改善の過程で役に立ったのは、お客さま先である医療機関を見学させていただいたこと。実際の現場でプリンタやリストバンドがどのような使われ方をしているかを自分の目で確かめられたことは、大きなヒントになりました。

小林 営業が積極的に私たち開発メンバーを病院へ連れ出してくれたので、看護師さんから直接評価を聞くことができました。そのおかげで、スムーズに開発を進められたと思います。オフィスにこもっていては分からないこと、気付けないことはたくさんありますからね。

友澤 その後「Nタイプ」をさらに柔らかくした「Sタイプ」を2012年に販売を開始し、現場から寄せられた要望を踏まえて課題を解決した改良型の「Sタイプ」をその翌年にリリース。使用済みのインクリボンから個人情報を読み取れないようにした「セキュリボン®」も併せて開発し、より一層安心してご利用いただけるようになりました。

橋本 サトー社内のメディカル部門が「サトーヘルスケア株式会社」として分社化したのもその頃のことでしたね。手探りの中からスタートした取り組みが事業として大きく花開き、グループを支える柱の一つにまでなった。担当者として非常に感慨深いものがありました。

「あると便利」ではなく「なくてはならない」商品に

本田 分社後にもリストバンドの開発・改良は続けてきました。語りたいエピソードには事欠きませんが、共通しているのは営業・開発が一体となって医療の現場に寄り添い、その声に応える形で商品を進化させてきたということ。一つ課題をクリアすればまた新たな課題が持ち上がり、それにまた対応して……という積み重ねの結果が、現在の多様なラインアップなのだと思います。

友澤 命を預かる仕事をしている方々をサポートする以上、こちらも相応の心構えで挑まなくてはなりません。「もっと〇〇してほしい」というご依頼に必死で知恵を絞り、解決につながるアイデアをお持ちして「よくここまで考えてくれた」と言っていただいたことも。そのやりがいは何ものにも代えがたいですね。

橋本 努力が認められることは、もちろん嬉しい。ただそれ以上に大きな喜びは、今やどこの病院にでも当然のようにリストバンドが使用されていて、そこで大きなシェアを獲得できているという事実そのものです。

小林 特に若い看護師さんにとっては、働き始めたときから業務フローに組み込まれた「当たり前」の存在になっていますから。「あると便利」なものではなく「なくてはならない」必需品になっています。そんな商品に黎明期から携わることができ、多くの患者さんの安全に寄与してこられたことは、開発者冥利に尽きると思っています。

コロナ禍を経て、さらなる進化へ

橋本 医療用リストバンドの進化がここで終わったわけではありません。さらに柔らかく肌に負担の少ない素材のリストバンドの開発を進めていますし、近年はコロナ禍によって非接触でデータを読み取る「RFID」技術に注目が集まるなど、現場のニーズも刻々と変化を続けています。

本田 もともと当社ではRFID用のICチップを搭載したリストバンドを開発・展開していたのですが、コロナ禍になり一気にお問い合わせが増えましたね。バーコードを使用するタイプでは、手をとってリストバンドに端末を当てないと読み取れませんが、RFIDタグは離れたところから非接触でリストバンドの情報を読み取ることができます。

友澤 もっと言えば、就寝中の患者さんを起こすことなく布団の上から読み取ることもできますし、患者さんへの投与時も、三点認証をスムーズに行うことができます。コロナ禍で引き合いが増えたことは予想外でしたが、これも医療現場で働く方々の心理的・肉体的負担軽減に大きく貢献できる商品なので、広まることは喜ばしい。多くの現場でご利用いただけるよう、さまざまな用途に対応できるラインアップを充実させています。

三点認証:投薬前に、患者、薬剤、実施者を照合することで、患者に正しい薬剤が使用されているか確認するとともに誰が誰に何を実施したかが記録される仕組み

RFID用のICチップを搭載したリストバンド

橋本 患者さんが安心して治療を受けられること──「Patient Safety」をコンセプトに掲げて事業を展開してきた当社ですが、2022年からこれを「Patient Happiness」に改めています。安心の先にある「幸せ」を実現する鍵になるのが、医療従事者の皆さんの働きやすさ。それにつながる商品をこれからも展開していくことが私たちの役割であり、RFIDリストバンドもその一つに数えられると考えています。創業者が唱えた「あくなき創造」の精神を受け継ぎ、さらなる未来の「当たり前」を生み出すべく挑戦を続けていきます。

サトーの「ヘルスケア」ソリューション

ヘルスケア市場では、「Patient Happiness」をコンセプトに、患者の安心の先にある幸せにつなげるため、 医療従事者の皆さまの働く環境を改善し、 QOL※向上に貢献するソリューションを提供します。

QOL=Quality of life

プロフィール

サトーヘルスケア株式会社

2014年4月に株式会社サトーから分社化し、医療用リストバンドをはじめ医療分野におけるソリューションの企画・提案ならびにプリンタ等ハードウェア商品およびサプライ商品の販売を行うサトーのグループ会社。